Date - 2024.06.04
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肩こりの原因は鼠径部にあり?根本原因を考える鍼灸師の考察
肩こりは、多くの日本人が抱えている症状の一つです。デスクワークやスマホ、タブレットの使用が増え、姿勢が悪くなることで肩が凝るという話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
電子画面の見過ぎや姿勢の悪さが肩こりを引き起こすという点に、多くの方が納得されます。しかし、肩こりの原因はそれだけではありません。
私の過去の治療経験から言うと、他にもさまざまな要因が肩こりを引き起こします。
肩こりを引き起こす要因例:
- 長時間座ることで起こる鼠径部(股関節周り)の筋緊張
- 中殿筋(お尻の外側の筋肉)の緊張
- 骨盤内の血流悪化(子宮周りや痔静脈エリア)
- 側腹部の筋緊張
- ハムストリングス(大腿部後面)の筋緊張
- 偏平足
- 度数の合わない眼鏡、コンタクトの使用
- 精神的ストレス
- 胃腸疾患
他の鍼灸師さんであれば、さらに多くの原因を挙げるかもしれませんね。
今回は、デスクワークが多い方によく起こる肩こりについて掘り下げていこうと思います。
実際の症例
先日、肩こりに対して鼠径部へのアプローチを行い、大きく改善した例をツイートしました。
https://x.com/MitsMatsunaga/status/1796846170171756924
患者さんの了承を得たので、この症例をシェアします。
50代男性の患者さんが主訴として肩こりを訴えて僕のところへ治療を受けに来られました。この方は普段の仕事でデスクワークが多く、3カ月前から肩こりがひどく、ひどい時は頭痛が起こるとのことでした。
肩こりは、首の後ろから肩甲骨にかけて(特に左側)感じており、上を向くと首の後ろが詰まって痛いとのことでした。日によっては左腕に違和感が出ることもあったそうです。睡眠は浅く、寝ても起きた時に疲れが残っているとのことでした。
身体を診察すると、以下のような所見が見られました。
- 斜角筋に圧痛あり
- 僧帽筋に圧痛なし
- 胸鎖乳突筋に圧痛なし
- 首の屈曲で痛みあり
- 伸展で痛み強
- 右側屈で痛みなし
- 左側屈で痛みあり
- 左右回旋で痛みなし
- 後頭部の分界項線に筋硬結・圧痛あり
- 左大円筋に圧痛あり
- 左三角筋に圧痛なし
- 左上腕二頭筋・上腕三頭筋に痛みなし
問題へのアプローチ
皆さんならどう考えますか?何が原因だと考え、どのように治療しますか?首肩以外の身体の部位も確認しますか?
前提として、「肩が凝っている=肩の筋肉の血流が悪くなって固まっている」と考え、肩の筋肉をほぐして血流を良くし、肩こりを改善しようという考え方は間違っていません。しかし、症状のある部位だけに原因があると考えるのは避けるべきです。
スポーツや事故による怪我であれば、痛みが出ている場所に原因があると考えられますが、慢性的な症状の場合は、他の部位の影響で肩に症状が出ていると考えたほうが良いでしょう。
もちろん、凝っている肩の筋肉にマッサージや鍼をして筋肉をほぐすことは効果的ですし、気持ちよくなります。しかし、その効果は短時間しか続かず、すぐに同じ症状が再発します。
皆さんも経験があるかもしれません。マッサージを受けに行って、施術中は気持ちよくて、マッサージ直後も良いんだけど、次の日になったら以前とあまり変わらない状態に戻っているということ。
慰安目的のマッサージであれば、それでも良いのでしょう。受けていて気持ちが良い、という料金に対する価値の提供は出来ていますので。
しかしながら、症状を改善する目的で行う鍼灸治療やマッサージ治療で、翌日に元に戻るような効果しか出せないのであれば、それははっきり言って価値のない治療だと私は思います。
本題:鼠径部の筋緊張と肩こり
さて、ここからが本題です。今回の記事タイトルに書いた、鼠径部の筋緊張から起こる肩こりについて掘り下げて行こうと思います。
肩こりの場合に首肩以外にどこを診ますか?との質問ですが、私の場合、全身を診ます。
具体的には、
- 立った時の姿勢
- 首、肩、股関節の可動域
- 体幹、腕、臀部、鼠径部、大腿部、足部の筋緊張や圧痛
- 腹診、脈診
- 経穴への押圧による各経絡の状態
などを指します。
毎回すべてを診るのではなく、問診である程度絞り込んで確認としてポイントとなる部位だけを触って圧痛や筋緊張を確認してあたりをつけて治療に入ることも出来るでしょう。
過去の私の失敗の話をすると、この視診、触診をしっかりとせずに治療に入り、症状を引き起こしている原因とまったく違う部位に施術をしてしまい効果が出なかったことがありました。
資格を取ってから間もない鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師さんに多い失敗かなと思いますが、どんな症状であれ体全体を毎回必ず診るようにしておくと、治療に失敗する可能性が低くなります。
全然触診せずに治療に入る施術者がいますが、それで結果を出せるのは、何十年も経験を積み重ねて来て、人の体のことを熟知している人くらいです。
資格を取って数年から十数年くらいであれば、しっかりと患者さんの身体を診るようにすべきでしょう。
本題に戻します。
今回のケースは、主訴が肩こりでしたが、結果から言うと、右鼠径部の筋緊張が慢性的な肩こりを引き起こしていたと考えられるケースでした。
仕事柄デスクワーク、パソコン作業が多く、肩がこりやすい生活環境にあったと言えますが、デスクワークばかりでパソコン作業が多くても肩が凝らない人は居ます。
なので、デスクワーク・パソコン作業=肩こりを引き起こすとは言えません。他に何かしらの要因が慢性的な肩こりを引き起こしていたと考えるのが妥当でしょう。
これは私の経験則による話になってしまいますが、デスクワークが多くて肩がこるという方は、鼠径部の筋(腸骨筋、大腰筋、内転筋など)に圧痛を伴う筋緊張がある場合が多いです。
鼠径部の筋肉の緊張と肩こりのメカニズム
長時間座っていたことで鼠径部の血管が圧迫されて血流が悪くなり、腸腰筋や内転筋が短縮ポジションで固まると、以下の流れで肩こりを引き起こします。
- 腸腰筋や内転筋の緊張により鼠径部の動きが悪くなる。
↓↓
- 鼠径靭帯(鼠径靱帯とは腹筋の一つである「外腹斜筋」と呼ばれる筋肉の、下の端っこ・停止する部分)が緊張し、腹筋が引っ張られる。
↓↓
- 腹筋が引っ張られることで肋骨の動きが悪くなり、肋骨が付着する胸椎の可動性が低下する。
↓↓
- 肋骨の動きが悪くなり、肋骨の付着する胸椎の可動性が低下し、体幹部前面の胸骨の動きも固くなり、胸鎖関節の可動性が低下、肋骨や鎖骨に付着している筋肉(大胸筋、小胸筋、前鋸筋、斜角筋、胸鎖乳突筋など)の動きが悪くなり、結果として筋肉が固くなったり筋中に圧痛が起こる部位が生まれる。
↓↓
- 頭や首を動かすたびに背中から首や頭に付いている筋肉(脊柱起立筋、僧帽筋、肩甲挙筋、斜角筋など)が引っ張られる形となり、結果として肩こりを感じるようになる。
↓↓
- さらに首肩の筋緊張が強くなれば、分界項線あたりの筋付着部が強く引っ張られ、結果として頭痛が起こる。
この流れを別の視点で見ると、腸腰筋と内転筋が短縮で固まれば、自然と股関節は軽度屈曲位、軽度内旋位となります。
ご自身で立ってこの姿勢を取ってもらうとよく分かると思いますが、人間の身体は、股関節軽度屈曲・股関節軽度内旋位を取ると、自然と背中が丸まって、肩が巻き肩の状態になり、頭が前に出てきます。
この姿勢で長時間過ごしていれば、頭の重さを骨ではなく首肩の筋肉で支えなければならなくなるため、誰しもが肩こりを引き起こす状態となります。
肩の筋肉が凝り固まった理由は、頭が前に出てしまうような姿勢を引き起こしている他の筋肉の緊張だと言えます。それがどこから起こっているのかを考えると、今回の場合は、鼠径部の筋緊張だったと言えます。
これを治療する場合、首から遠いところから順番に筋肉の緊張を緩めて行くと良いです。
今回のケースであれば、内転筋→腸腰筋→腹筋→胸鎖関節→斜角筋→後頚部の筋群という順番になります。
それをどの方法で行うかは人それぞれで良いと思っています。
鍼を使うのか、お灸を使うのか、徒手マッサージ等でアプローチするのか。
人によっては、固くなっている筋肉に直接鍼を刺したり、電気を流したりするでしょう。
私のように筋緊張や痛みなど症状がある部位には鍼を刺さないで、経穴を使って遠隔治療でアプローチをする人もいるでしょう。
1つの方法に拘る必要はないと思いますし、いろいろな方法で症状の緩和が出来ると良いでしょう。
大切なのは、身体をどう診てどう判断するかです。
身体評価がしっかりと出来てそれにあった治療法を選択すれば、症状は必ず改善します。
たとえ1回目の治療だったとしても。
すべての肩こりが鼠径部の筋緊張から起こるわけではないですが、このケースは現代においてかなり多いと思われます。
もし、あなたが長時間のデスクワークやパソコン・スマホ・タブレットの見過ぎによる影響で肩こりがあると感じているのであれば、ぜひ一度股関節回りの筋肉を押して確かめてみてください。
鼠径部(腸骨筋、大腰筋、内転筋の付着部)に圧痛があるようであれば、おそらくそれがあなたの肩こりが慢性的になっている大きな要因と言えるでしょう。
セルフケアとしては、首肩の筋緊張を取るようなストレッチに加え、股関節を伸展させるストレッチ(腸腰筋のストレッチ)と足を開脚するストレッチ(内転筋のストレッチ)をすると良いでしょう。
個人的には、長時間デスクワークをするなら、スタンディングデスクを導入するなど、股関節が曲がった状態で長時間過ごさないようにするのが予防として効果的だと考えています。
デスクワークを辞めるわけにはいかない人は、ぜひスタンディングデスクの導入を考えてみて頂ければと思います。
個人的に使ってみて思うのは、下のリンクのもののように今あるデスクに置くタイプのスタンディングデスクの方が使い勝手が良いかなと思います。
何かしらの理由で座って仕事をしたくなった時でもデスクに置くタイプならすぐに元に戻せまし。
※アマゾンアフェリエイトプログラムを利用しています。
立ちっぱなしで仕事をするのは疲れるから嫌だというのであれば、長時間座って仕事をしたら股関節を伸ばすストレッチやヨガなどをセルフケアとして取り入れるのも良いでしょう。
ピラティスがとっても良いなと個人的には思っています。
単なる肩こりだったとしても、慢性的な症状の場合、症状が起きている場所(つまり、肩だけ)だけが問題であるケースはほとんどないと思います。身体全体の繋がりを考えて診ていけると良いですね。
鍼灸治療やマッサージ治療をして行く際、人の身体をどう診るかがとても大切になります。
どう診るかとは、どう考えるかです。鍼灸師としての考え方が治療の腕有り無しをを大きく左右すると言えます。
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皆様のご参加をお待ちしております!!
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