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Date - 2019.04.23

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【徹底読解】豪華客船で働いた鍼灸師へのアンケートインタビューをまとめた論文を読解してみた

豪華客船で働く日本人鍼灸師の数は年々増え続けています。

5年前に僕が乗った当時はまだ総数30人ちょっとでしたが、今では100人以上の日本人鍼灸師が豪華客船で働いています。
(今現在乗ってる鍼灸師の数でいうと10数人かと思います)

 

乗船を目指して頑張っている人もたくさん居るようですし、今後も豪華客船で働く日本人鍼灸師の数は増えて行くでしょう。

注目度も年々上がって行ってるように感じます。
そんな中、先日、豪華客船で働いたことのある鍼灸師を対象としたアンケートインタビューをまとめた論文が発表されました。

 

 

著者は、
森大和さんと家入志帆さん。

学校の卒業論文として制作されました。
論文はこちらから↓

 

こちらの論文、僕も知らなかったことがいろいろとまとめられていて、読んでいて興味深かったです。

今回の記事では、この論文について、僕が豪華客船で働いて学んで来た知識も交えて解説して行きます。

 

 

外国人相手の鍼灸の可能性

この論文の[目的]

“現在、日本の年間鍼灸受療率は7.3%であり、低迷している。そこで、近年増加が著しい訪日外 国人観光客及び在留外国人を患者として導引する事を勘案し、現在豪華客船で外国人患者の治療にあたっている日本人鍼灸師及び船上で鍼灸治療にあたった経験をもつ日本人鍼灸師を対象に、アンケー トとインタビューを実施した。”

 

日本での日本人の鍼灸受療率を引き上げるという多くの鍼灸師が見ているものとは違った視点、日本に来る外国人観光客や在留外国人を患者として引き入れるという視点を持って、その為には何が必要なのかを見出そうとしてます。

 

こういう考え方が生まれて来るのって素晴らしいですよね。

 

日本に医療を受けに来る外国人も増えていますし、
日本で医療を受ける為のツアーを画策している会社も増えてきました。

病院も海外から来る患者を受け入れるような準備、プロモーションをしているところも出てきました。

 

これは病院だけではなく、鍼灸院もアプローチしていくのは理にかなっているのではないでしょうか?

 

日本人への認知度を高めることも大切ですが、
観光大国を政府が目指している今、
今後どんどん増えて行くであろう外国人をターゲットとして行くのは、方針としてとても良いのではないかと思います。

 

そんな視点でこの論文を読んでいくと学べるものがたくさんあります。

いやー、外国人相手の鍼灸を考える為に豪華客船で働く鍼灸師に目をつけたのは先見性があるなぁと思います。

豪華客船での鍼治療がそもそも観光客相手のビジネスですからね。
学ぶことは多いですよ!

 

この論文の[結果]

“アンケート回答者全員が、乗船客が鍼灸を受ける一番の目的として「治療のため」を選択した。 アンケート、インタビュー共に外国人患者の国籍として挙げられた最多の国はアメリカであった。”

この論文の[考察・結論]

“日本では公的保険により費用の負担が軽減された医療を享受しているが、アメリカでは 日本よりも病院での医療費は高額である。こうした背景と本研究での結果を勘案すると国民皆保険で はなく、医療費が高額な国の人々には鍼灸が医療として受け入れられやすく、また保健の意識も高い 事が予測される。”

 

日本の医療費は安いです。
安いだけではなく、質も高いです。

この質の高さでこの安さで医療が誰しも受けれるような環境は世界的に見てもそうそうありません。

もちろん、中には高額な治療もありますし、
年々医療費が上がっている現状に問題がないわけでもありません。

また、医療費の安さが、
鍼灸や医療マッサージなど他の治療を受けに行くという選択肢を取りづらくさせているのがあるようにも思います。

 

 

医療としての鍼灸・治療としての鍼灸がある環境

アメリカでは鍼灸の知名度が年々上がり、鍼灸治療を受ける人が増えています。

特に富裕層で鍼灸などの代替医療に理解が深いことも影響し、鍼灸治療の受療率が増加しているようです。

 

日本に帰って来て思うのは、日本人の健康意識のレベルは、アメリカやカナダ、西欧諸国に比べると低いです。
貧困層はどの国でも同じかもしれませんが、中流層から富裕層にかけての健康意識レベルは間違いなく高くありません。

 

鍼灸治療に対する国民の考え方も違うように思います。

この論文にも書いてありますが、特にアメリカや中国において鍼灸は医療としてとらえられています。海外では研究も盛んに行われています。

 

論文より参照

“スパ内の治療院では、美容やリラクセーション目的で鍼灸を受療する患者が多いと予想したが、全ての回答者が、患者が鍼灸を受ける理由を「治療のため」と回答した。また乗船中に 複数回治療を受ける患者が多く、渡航中にも自己愁訴の軽減に取り組む姿勢が見受けられる。さらに、船内で扱う上位3疾患は、1位整形外科疾患、2位内科疾患、3位不定愁訴であり、内科疾患や不定愁訴などの整形外科疾患以外の症状の軽減も鍼灸に期待しているようである。”

 

豪華客船では、鍼治療は医療として捉えられ、
鍼灸師はドクターと呼ばれる存在です。

それは客船にスパを入れている会社のオフィスがアメリカにあり、
アメリカで鍼灸師はドクターライセンスだからという理由があります。

 

アメリカで鍼灸の資格を取得する場合は、
4年制の大学を卒業した学士号取得者である必要があります。
アメリカでの鍼灸学校はすべて大学院で修士号の資格となっています。

 

そもそも資格の価値が高いです。

高卒すぐ入学できる専門学校で鍼灸免許が取得できる日本とは違います。

 

修士号の資格取得者だから必ず出来た人間であるとは言いませんが、

アメリカでは鍼灸師になる為に大学4年間と鍼灸大学4年間(アメリカでは大学卒業まで5−6年かかることも普通にある)の8年という時間がかかることになりますので、人生経験という点で見れば、高卒後3年で鍼灸師になった日本の鍼灸師とは、資格取得時点で人生経験の大きな差があるというのは否定しようがない事実でしょう。

 

おそらくそういったこともあり、アメリカでは鍼灸師はドクターとして患者さんから西洋医学のドクターのように信頼を得ています。

豪華客船で働く鍼灸師は、医療としての鍼治療、
ドクターとしての鍼灸師という立場で日々治療を行っています。

 

それが当たり前となると、
やはり日本の鍼灸業界に物足りなさというか、嘆かわしさを感じてしまうこともあります。

なぜ、日本では鍼灸が医療として西洋医学と同じように扱ってもらえないのかと。

話がそれました。
想いがある分、ついつい熱くなってしまいますが、
今回はそういう話じゃないので本題に戻ります。

 

 

豪華客船における鍼灸師事情

こちらの図をみてください。
(論文より参照)

 

2018年3月1日から5月1日に行ったアンケートにたいする回答から出て来た数字ですが、

豪華客船で働く鍼灸師の年齢は、30代が1番多く、男性より女性が多めで、
1日の治療数は5-6人という人の割合が1番多いようです。

 

注目すべきは、治療を受けた患者は、初めて鍼灸を受けるという人の割合が高いという点です。

一般的な日本の鍼灸院や病院で初めて鍼治療をうけるという患者の割合がどの程度なのか分かりませんが、豪華客船という環境で言えば、間違いなく初めて鍼治療を受けますという人が多いです。

 

僕は5年間豪華客船で働いて来ましたが、
その割合は変わって来ているように感じます。

僕個人の話で言えば、5年前に初めて船に乗った時は、初めて鍼治療を受けますというゲストは7割くらい居ました。しかし、2019年の2月に降りた船では、その割合は5割ほどになっていました。

 

全体の鍼灸受療率はまだまだ低いかもしれませんが、
豪華客船に乗って来る中流から富裕層にかけては鍼治療を受けたことがあるという人の割合が年々高くなっているように感じます。

 

こちらの図を見てみましょう。

 

豪華客船で鍼の治療を受けに来る患者はアメリカ人が1番多いです。
また、イギリスクルーズやオーストラリアクルーズがあるので、
オーストラリア発着のクルーズで働く鍼灸師やイギリス発着のクルーズで働く鍼灸師も多いので、イギリスとオーストラリア人の患者も多くなっているのかなと思います。

 

クルーズでの発着数で言えば、
1番多いのはアメリカです。

ヨーロッパクルーズやアジアクルーズも年々増えては居ますが、
やはりアメリカ人のゲストが多く、船内のスパに来るのもアメリカ人が多いので、
自然とアメリカ人ゲストへ鍼治療をする割合が高くなっているのではないかと思います。

 

患者の年代もクルーズに来るゲストの年代によって変わりますので、
20代や30代の若い世代の患者は低くなる傾向が強いです。

 

クルーズ客の年代は、各クルーズによって多少変わります。
全体の割合で言えば、多いのは仕事をリタイアして時間のある60代−70代、
そして仕事が落ち着いて来て時間と余裕のある50代が比較的多くなっています。

 

鍼治療を受けに来る患者の主訴は、
整形外科疾患が多いです。
おそらく全体の6−7割くらいの患者が整形外科疾患の治療で船のスパに鍼治療を受けに来ます。

 

体感として、クルーズ日数が長くなればなるほど、
整形外科疾患以外の症状を訴える患者の割合が増えて行きますので、
働いている船が何日間クルーズをやっているのかで、
患者の訴える症状の割合が変わります。

 

今、日本では美容鍼が流行っていますが、
船で美容鍼メインで勝負するのは難しいように思います。

不可能ではないですし、
一定数の顧客を得ることは出来るかもしれませんが、
豪華客船のスパにはフェイシャリストやメディスパドクターといった美容のスペシャリストが居るので彼女たちとターゲットする人がかぶるのは得策ではないですね。

 

基本的に船のスパでは、鍼灸師を痛み&内科疾患&ストレスのスペシャリストとしてプロモーションする場合がほとんどです。

豪華客船で働こうと考えている鍼灸師さんは、図に出ているように整形外科疾患、内科疾患、不定愁訴をしっかりと治療できるようになっておく必要があるでしょう。

 

 

豪華客船を辞めた後の鍼灸師たち

インタビューに対する船上鍼灸師の回答を全部紹介したいところではありますが、
それは原文を読んで頂いて確認してもらって、
この記事では個人的に興味深かった内容について紹介したいと思います。

 

それは、豪華客船を辞めた後の鍼灸師たちの現状について。

僕自身、豪華客船で働くのを辞め、
新しい環境に身を置くことを決めましたので、
先人たちがどんな形で働いているのかは興味のあるところです。

 

実際に著者が日本で外国人相手に治療をしている鍼灸師に聞き取りを行った結果

 

“2.豪華客船外での外国人治療に関するインタビュー

(1) 回収結果 かつてスタイナーレジャー社に勤務していた 日本人鍼灸師14名の内、9名の回答を得た。

(2) インタビュー回答者の基本属性 インタビュー回答者9名の内訳は、日本で外国 人患者を治療している鍼灸師5名、海外で外国人 患者を治療している鍼灸師2名、日本で日本人を 治療している鍼灸師1名、日本の大学院に通って いる鍼灸師1名であった。

(3) 国内での外国人治療の実際 本研究では国内での外国人治療に焦点をあて るため、日本で外国人を治療している5名のイン タビュー内容を表10に一覧とした。 患者で多い国籍は、欧米人であった。1週間に 治療する平均患者人数に対する外国人の割合を 見てみると回答者Dが一番高く、40~60%であった。
また回答者Dだけが、外国人の患者は観光客が多 いと回答した。患者の男女比は、回答者A、B、E の3名が女性が多いという回答であった。”

 

 

個人的には読んでみてとても興味深い内容です。

ただ、1つ気になるのは、表に載っているように1週間に治療する患者数が10人以下の人が多く、
豪華客船と同じ治療数をこなしてるであろう鍼灸師の数が少ないこと。

 

彼らが船で1日平均何人治療をしていたのかが分からないので詳しくは言えませんが、船である程度の業績を出している人は1週間で40−50人は治療しているかと。

多い人は1週間で70人くらい治療します。

 

 

そこから考えると豪華客船と同じように働いているというわけではないようですね。

また、外国人の患者は長期滞在者と回答した人がほとんどで、
短期滞在者、観光客相手の治療を行えているのは1人だけです。

 

ただ、この1人の方は1回の治療費が20000円から30000円ということなので、
豪華客船に近い値段設定で治療が出来ているようなので、
船で働いた経験を活かし、豪華客船とおなじような環境を日本でも作ることは可能だということが言えそうです。

やり方次第だと言えそうですね。

 

 

終わりに

論文の考察より

“インタビューを行った5名中4名の1週間に治療する患者数に占める外国の割合は3割以下であり客船での治療経験を有する施術者であっても、外国人患者の数は未だ少数である。しかしインタビューを行った5名全員が患者の国籍で多い国として、アメリカを挙げている。アメリカの年間鍼灸受療率は1.1% であり、依然鍼灸が普及していないのが現状であるが、豪華客船上でのセミナー が効果をもたらしたように、アメリカ人富裕層には鍼灸に理解がある人が多く存在することも事実である 。こうした層に鍼灸の魅力を上手く伝えて行くことが外国人の受療促進への一歩であると考える。”

 

僕も薄々分かってはいたことなのですが、
豪華客船での仕事を辞めて日本に戻って来て鍼灸の仕事をやる場合、
豪華客船と同じように外国人相手メインで治療をして行くのはまだまだ難しい。

 

逆に言えば、そこに大きな可能性があると。

 

 

豪華客船で鍼治療がビジネスとして成り立っている現状を考えると鍼灸治療は、健康にお金をかけられる金銭的に余裕がある外国人の富裕層をターゲットとして行くいことに一つの大きな可能性があるということが言えます。

日本で如何にして鍼灸治療を広めて行くかを考えるのに、
外国人相手の鍼灸治療の可能性を考慮に入れるのはとてもよいのではないかと思います。

 

豪華客船で働く鍼灸師が増え続けている現状は、
今後、豪華客船で働いた経験がある日本人鍼灸師が日本に増えていくことを示しているわけでもあります。

僕個人としては、そういった方々をうまく活かして、
日本で外国人相手に豪華客船でするようなビジネス展開をする企業がもっと増えたら良いのになと思います。

もちろん、豪華客船で働いてた鍼灸師が個人でそういうビジネスを立ち上げるのも手ですが、一人でゼロから始めるのは大変なので、
すでに箱がある治療院か会社がそういったビジネス展開をして行くほうが成功の可能性は高いと思います。

 

すでにそれをしようと動いていらっしゃる方も居ますが、
まだまだ数は少ないので、これから鍼灸関連で事業拡大を考えている方は、
豪華客船で働いていた鍼灸師を引き入れて行くというのはとても選択肢になるんじゃないかと思います。

 

船上鍼灸師は意外と横のつながりがあるので、
もし、豪華客船で働いていた鍼灸師と繋がりたい、
求人を募集したいという方が居ましたら、
僕の方まで連絡を頂けたら繋げられるかと思います。

何か一緒にやりたいという方が居ましたら気軽に連絡してくださいね。

 

 

論文総評

この論文だけでは、外国人相手に鍼灸をやって行くのにどうしたら良いかの結論は出ていません。

著者も外国人に直接インタビューをする必要性を提唱しています。

著者が目的としてあげた“訪日外国人観光客及び在留外国人を新たな受療者として獲得できないか”ということに対する答えは、この論文の中では出ていませんが、その目的を達成する為に何が必要なのかということが見え始めたのではないかと思います。

 

論文自体は、しっかりとしたデータを用いつつ、新たな視点で今後の日本における鍼灸の可能性を提示出来ていると思います。

鍼灸の解明や鍼灸の有効性に関する論文とはテイストが違った論文ではありますが、見る人が見れば面白い可能性に満ちた論文です。

特に豪華客船で働くことに興味がある人は読むべき論文でしょう。

参考になる情報がたくさんありますので、一読すると良いですよ。

個人的には、予想通りのデータが多かったのですが、
逆に言えば、豪華客船の鍼灸師の現状をとてもよく表せている論文になっているのかなと言えます。

 

論文として上手くまとまっていますし、考察もとても良いものとなっていますので、個人的にはとても良い論文に仕上がっていると思います。

鍼灸師の方は、是非ご一読ください!


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