Date - 2018.10.21
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置鍼に意味はあるのか?効果を考えてみた
先日、夜な夜な鍼灸師さん達が集まるZoomでのオンラインミーティングに参加して来ました。Zoomのオンラインミーティングについてはこちら↓
https://houmon-shinkyu.jp/archives/30980048.html
そこで話題に上がったのが、“置鍼”に意味はあるのか?ということ。
きっかけはとある鍼灸師さんが、患者さんに置鍼の効果、やる意味を聞かれた時に上手く説明出来なかったから、実際のところどうなんだということを聞きたいということで投げかけられた質問でした。
この日のZoomには、伝統鍼灸界隈では名の知れた鍼灸師さん(以下、大先生)も参加されていて、その方に“置鍼”についてどう考えるのか聞いていました。
その大先生曰く、
「意味なんかねぇんじゃね?治療者の都合でしょ。」
とばっさり切り捨ててました。それはもう清々しいくらいに。
実際、昔は今と比べて鍼の質が低かったので鍼が折れる可能性も高かったし、
盲目の人からすれば手を一度放してしまえばどこに鍼があるかを探すのは難しい。
だから置鍼自体はそもそもあまり用いられてなかったんじゃないかとも言ってました。
ふむふむ、なるほど。
接触鍼で十分に治療効果は出ますし、確かに必ずしも置鍼する必要はないのかもしれません。
しかし!
たとえ大先生がそうだと言っても何も考えず鵜呑みにしてはいけません。
それでは思考停止で成長して行きません。
本当に”置鍼“に意味はないのかを自分の経験を交えて考察してみることにしました。
筋肉を緩める為に”置鍼“は必要か?
多くの患者さんが痛みを訴えて鍼治療を受けにやって来ます。
その際、ほとんどの場合は筋緊張や筋肉の硬結が痛みを引き起こす原因となっています。
治療法は違っても、痛みを取り除くには原因を取り除く必要があります。
つまり、筋肉を緩める必要があるということですね。
筋肉の硬結に関して言えば、正しい取穴をして刺鍼をすれば、ほとんどの場合速攻で緩みます。
置鍼をする必要は正直言って無いと思います。
亜急性の症状であれば一度症状を取り除けば単鍼でほとんどの場合症状が戻って来ることがありませんでしたし、簡単な筋肉の硬結によって引き起こされる痛みの場合であれば、”置鍼“は必要がないというのが僕の意見です。
では、硬結ではなく、筋全体の緊張の場合ならどうでしょうか?
これも同じく、正しい取穴が出来ればほとんどの場合速攻で緩みます。
じゃあ、これも”置鍼“は必要がないと言えるのかと聞かれるとそうではないと、僕はここで、”置鍼“をするメリット、効果があることを提唱したいです。
実際にあった症例から行きましょう。
20代男性、主訴:首肩の筋肉の持続的な緊張による不快感、時に痛み。 患っている期間:約2年
この患者さんは、常に首肩周りが緊張していてスッキリしない、常に緊張を感じているということで鍼治療を受けに来ました。大学生だったこともあり、勉強とストレスが引き金になって症状が現れたことが本人の自覚と四診からもみてとれることが出来た症例です。
肩甲骨が挙上し、背中が丸まり、姿勢不良が筋緊張を助長している状態でした。
この患者さんには、後頭部と肩甲間部、そして、下腿に鍼を打ってたのですが、身柱に鍼を打った途端、肩甲間部の筋肉がピクピクと痙攣をし始めました。
本人は全く痛くないとのことだったので、そのまま痙攣が止まるまで、約15分間、置鍼をしました。
置鍼を終えて鍼を抜くと、患者さん曰く、「首肩が超軽い。緊張が完全になくなった。」と。緊張していた筋肉を触ってみても、カッチカチだったのが嘘のように柔らかい筋肉になっていました。
また、丸まっていた姿勢も綺麗なまっすぐな姿勢に変わり、肩甲骨の位置も本来の位置に戻っていました。
一度の治療で症状が大きく変わった症例ですが、
痙攣が止まるまで置鍼をすることは、筋肉の緊張が完全に緩むまで待つことと言い換えることが言えるのではないかと推測しています。
雀啄や旋捻といった手技を加えて筋緊張を緩和することも出来ますが、手技が上手く操れないうちは、時に”置鍼“をすることで筋緊張の緩和をする事が出来るのではないかと僕は考えています。
なので、”置鍼“は使わなくても良いけど、全く意味の無いものではないと言えるのではないでしょうか。
”置鍼“は、体液・血液循環に影響を与えるのか
僕が豪華客船に乗ってから何度か聞いた話なのですが、鍼灸師以外のボスが鍼について説明をする時、
彼らは、「鍼を体内に刺すことで、身体が”鍼“を異物だと認識し、免疫系で対応する為に血管を拡張させ、白血球やガンマグロブリンなどの免疫物質を刺入部位に集める。だから鍼を刺した場所に効果が出るのだ。」とスパメンバーに鍼治療について説明をしていました。(正しいかどうかは別として)
たしかに、鍼を刺した部位に発赤ができるし、鍼を打った場所が温かくなることもあります。(鍼を直接打った場所以外の部位が温かくなることや全身が温かくなることもあります)
赤くなるということは、充血しているか、血流が良くなっていると考えることが出来るでしょう。
刺入部の発赤は、単刺よりも置鍼をした方が出来ます。というか、単刺で発赤が出来ることは僕の経験上ほぼ無いです。
体液・血液循環を調整するのは、単刺やその他の鍼の手技、接触鍼で行うことも出来るでしょう。しかし、身体がとても冷えていて、血液量が少ない人だと、それだけでは体液・血液循環が改善されないことを何度か経験して来ました。
長野式で有名な”長野潔“氏も症状によっては20分以上の置鍼(時には30−40分)をすることで効果が出る疾患と取穴があると著書でおっしゃっています。
なぜ、20分以上の”置鍼“が効果をもたらすのでしょうか?
逆に短い置鍼ではなぜ効果が出ないのかも一緒に考えて行きましょう。
”置鍼“がもたらす効果とは。機序を考える
置鍼をする場合、鍼は、皮下の結合組織の部分、もしくは、筋肉の中に留める形になるでしょう。結合組織内に留めるのであれば、物理的に結合組織の形に影響を与えることになります。
人体の結合組織内には、体液が流れています。結合組織のくっ付き具合によって体液が流れやすいルートと流れにくいルートが存在しているのではないかと僕は考えています。(解剖実習で確認済み)
山に雨が降る場面を想像してもらうとわかりやすいかと思いますが、
降った雨の一部は、土の中へ(血管内へ)、一部は土や木々、岩の間を流れ、川へ(経絡)と流れて行きます。しかし、時に降った雨は川へ流れることなく、水溜り(体液が流れない場所)を作ることもあります。この水溜り(体液が流れない場所)が筋中や皮下に出来るのが硬結の原因の一つなのではないかと僕は考えています。
そんな硬結部へ鍼を刺すことで、水溜りと川を繋げて、濁った水(瘀血・瘀水)を流すことが出来ます。
もし、濁った水が少量であったり、体液・血液循環が良ければ、濁った水はすぐに流れていけますが、多量にあった場合や循環が悪い場合は、なかなか流れて行ってくれないことでしょう。
そうなると置鍼をすることで道を繋げたままとし、ゆっくりと、時間をかけることで患部の、もしくは関連部位の体液・血液循環を改善することが出来るのではないでしょうか?
逆に言えば短時間では流しきれない、症状が取りきれない可能性も考えることが出来ます。
筋肉の緊張を緩めるため、神経刺激を与えるためであれば、”置鍼“は必要ないでしょう。
しかし、体液・血液循環の改善やそれに伴うホルモンバランスの調整という観点で考えれば”置鍼“にもしっかりとした意味があるように僕は思います。
置鍼を15分20分とすることで患者さんは身体が温かくなって来たと言います。
それはおそらく体液・血液循環が良くなっている証拠でしょう。単刺だけでそこまでの変化を出せるようになるには、多くの経験と技術が必要でしょう。
それは万人がすぐに習得出来る技術ではないように思います。
お灸をすれば置鍼をしなくても
身体を温めることが出来ますが、お灸が使えない場合は”置鍼“がその役割を担うことでしょう。
置鍼をしなくたってどんな人でも体液・血液循環を改善をすることが十分に出来る鍼治療法が世の中にはあるのかもしれません。
しかし、僕の治療法では、虚している人、特に血液循環の悪い人には”置鍼“が有効的だと考えています。
置鍼とは、物療に近いイメージだと個人的には思っています。
ヒートパックや超音波を使って血流を改善する・温める、身体を温める治療が難しい鍼灸師が取り得る身体を温める、
体液・血液循環を改善する方法のひとつが“置鍼”なのではないかと思います。
個人的な“置鍼”についての推測
置鍼をすることで、患者さんは鍼を感じる、
患部を感じることが出来ます。
その刺激は必ず脳へと届きます。つまり、脳が身体の不調に気づくということが言えます。
人間の脳は、スパコンより複雑なことができる高性能なものですが、時に簡単なことにも気づけないバカなものでもあります。
脳が緊張や不調を感じなければ、身体はその症状を無視して治しません。
たまに首がガッチガチに固まっているのに首の張りを感じていない人がいます。
そういう人は筋緊張が長期に渡って起こっている為感覚が麻痺して(脳が刺激に慣れて)しまっている為、身体が筋緊張を緩めようとしません。
そんな状態の時に鍼治療をして刺激を与えることで脳が気づき、自己治癒へと繋がって行くのではないかと思います。
置鍼をすることは、刺激を与え続けることになるので、その分、脳が注意を向ける時間も長くなるでしょう。それが不調の改善へと繋がっていくのではないかと思います。
僕は、脳が働き過ぎて夜寝れない時に
攅竹と魚腰に置鍼をすることで、交感神経のスイッチを切り、副交感神経優位にすることで眠ることが出来ています。
単刺や手技だけでは寝落ちすることはありません。
“置鍼”をすることで寝落ちすることが出来ています。
そういった経験からも“置鍼”に意味はあるのではないかと考えています。
終わりに
結局のところ、治療効果が出ればOKという鍼灸師が多いと思います。また、治療院の都合で置鍼をしている方もいらっしゃるかもしれません。
それでもなぜ自分がそれをするのかは、一度しっかりと考えておくべきかと思います。
置鍼をせずに治療を行うスタイルの鍼灸師もいます。
僕のようにほぼ毎回置鍼をする鍼灸師もいます。
痛みを取り除くだけなら5−10分で終わる症状でも豪華客船でオファーしている鍼治療では40−50分の治療をしています。
(それが会社が決めたスパでオファーしている鍼治療なので。)
そうい時は、主訴以外の症状へもアプローチしたり、リラックスをメインとした治療を組み合わせることもあります。
結局のところ、豪華客船のスパという職場は、病院のような医療の現場ではありません。
症状を改善することに加え、どれだけ患者さんを満足させられるかが求められる現場です。
また、患者さんと常に1対1ではなく、2部屋3部屋で複数の患者さんを治療することになります。
そういった場所であれば、置鍼という治療法は無くては成り立たないものとも言えます。治療する側の都合ということが間違いなく加味されています。
しかし、それを抜きにしても
“置鍼”には意味があると僕は考えています。
これは、研究結果でもなければ、なにかの論文の引用でもない個人的な意見ですので、合ってるか間違っているかは分かりません。
気になるトピックではありますので、今後論文をあさってみるなり、将来自分で研究してみるなりして突き詰めてみようと考えています。
いつか、しっかりとした証拠を元に、“置鍼”の意味についてまたまとめてみようと思います。
MITS
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